東京高等裁判所 昭和61年(う)774号 判決
被告人 安齊弘之
〔抄 録〕
所論は、原判決は罪となるべき事実中別表3の事実について自白を内容とする被告人の原審公判廷における供述、被告人の司法警察員(昭和六一年四月一日付)及び検察官(同月七日付)に対する各供述調書を証拠として挙示しているほかには右自白を補強する証拠を挙示していないから、右事実につき被告人の自白を唯一の証拠として有罪の言渡しをしたもので、右は憲法三八条三項、刑訴法三一九条二項に違反する法令適用の誤りであり、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
そこで、原判決書及び原審記録を調査すると、原判決は、罪となるべき事実として被告人が昭和五三年以降犯行前四回にわたり窃盗・詐欺、窃盗又は常習累犯窃盗の罪により懲役刑に処せられてその執行を受けた事実を摘示したうえで、常習として八回にわたり別表1ないし8の窃盗を犯した旨の常習累犯窃盗の事実を認定判示し、そのうち別表3の事実認定に資する証拠としては、所論指摘の各証拠並びに検察事務官作成の前科調書(昭和六一年四月一八日付)及び判決謄本三通を挙示している。ところで、常習累犯窃盗罪を構成する個個の窃盗行為を認定するには、被告人の自白がある場合でもそのほかに各行為ごとにこれを補強する証拠を要することは所論指摘のとおりであるところ、原判決が別表3の事実について挙示する前示証拠は、被告人の自白のほかには原判示冒頭の受刑の事実及び窃盗の常習性を証明する証拠にとどまり、別表3の個別的事実について補強証拠たりうるものは掲げられていない。そうすると、原判決は別表3の事実については被告人の自白を唯一の証拠として有罪の言渡しをしたものであって、右は刑訴法三一九条二項に違反する訴訟手続の法令違反であり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである(所論は刑訴法三一九条二項違反を法令適用の誤りとするが、右違反は訴訟手続の法令違反にあたると解される。なお、別表3の事実についても被告人の公判廷における自白があるから、憲法三八条三項違反の主張は失当である。)。
(小野 高木 安藤)